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【里らぼ2021】第5回 最終プレゼンテーション発表・講評/展示会
埋もれかけてしまった木曽地域の文化や知恵を再び耕し、未来につながる「もの·こと」を生み出すプログラム「里らぼ木曽2021」
常滑に拠点を置きプロダクトデザインを軸に様々なプロジェクトを行うクリエイティブディレクター高橋孝治さんを講師に迎え、2021年8月22日から始まり、早いもので最終回となりました。
今年の参加者は3名。今年は会場を大桑村と木曽町の2つの場所で行われ、去年とは違った雰囲気での開催となりました。その様子をレポートします。
■第1回現場訪問の様子は こちらからご覧ください
■第2回プラン立案(試作品披露)の様子は こちらからご覧ください
■第3回 中間発表①/個人ワーク の様子は こちらからご覧ください
■第4回 中間発表②/個人ワーク の様子は こちらからご覧ください
大桑村の古民家ギャラリーで登り窯を囲みながら
最初の会場となった場所は大桑村にある古民家。
参加者の奥野さんが改修、リノベーションしながらギャラリーにしようとしている場所です。
広い古民家の2階には、奥野さんが大桑村の土で作った陶芸作品が並べられ、とても素敵な空間になっていました。
奥野さんから、この古民家のどのあたりを改修しているのか?どこの土を採取して焼いたのか?など、実際に家中を見たり、庭の登り窯を見ながらお話を聞きました。わかりにくい場所で、木曽福島から離れているので、果たして当日見学しに来てくれる方がいらっしゃるのだろうか?と心配をしていたのですが、運営スタッフの予想を大いに裏切られ、近所の方や大桑村の方が沢山見に来てくださいました。
その中でも、印象に残ったのは、ここに住まれていた方のお話を近所の方が嬉しそうに話されていたことです。誰も住んでいなかったところに、奥野さんが地域に新しい息を吹きかけ、地元の方と一緒に素敵な場所を築き上げてくれそうな予感がしました。
昨年に引き続きイラストレーターの坂本大三郎さんを迎えて
場所を大桑村から木曽町へ移し、緊張の面持ちのなか、いよいよお客様を入れてのプレゼン発表開始です。
まずは運営メンバーの坂下と講師の高橋さんから、今年度の「里らぼ2021」の経緯や今までの様子を紹介されました。
今年、ゲストビュアーとしてお越しいただいたのは、昨年と同じく山形県で山伏/イラストレーターとしてご活躍の坂本大三郎さん。
坂本さんは「里らぼ木曽2020」が終わった後も、木曽広域連合と里らぼスタッフで移住推進の高速バスのデザインのお仕事を一緒にした経緯もあり、昨年よりも木曽との関わりが深まったはず。今回のレビュー内容も楽しみです!
里らぼスタッフと共に中山道や御嶽山を歩き感じた、坂本さんのコラムは「イキルキソ」からご覧ください。
過去を辿り新しい記憶を皆で編集する。「古物編集室」
最初のトップバッターは南木曾町地域おこし協力隊の川本さんです。
木曽地域から出てきた古材や古道具を販売・リサイクルするのではなく、皆で一緒に使い方を考えたいという提案。その名前は「古物編集室」。
どこからその古物が出てきたのかを「たどり」、皆でその使い方を「見立て」たり、時
には素材として利用し何かを「作る」ワークショップなども開催したいとのことです。
高橋さん
「ワークショップもよいけれど、実際に購入できる場所があったらいいなと思います。川本さんのそのキャラクターと古物の感じが、ハイブリット感があっていいと思います。」
坂本さん
「見立てるのは非常に難しくて、それをやるのには「信用」が
大切です。古物を扱っている人は沢山いて、その中にどう分け入っていくのか?どうしたら耳を傾けたくなるのか?その「信用」を得るためには深い層に入っていうしかないです。」
木曽には古い家から古物は沢山でてきますが、販売しているところはほとんどありません。
川本さんがこれから木曽の古物の価値をどのように編集していくのか?とても楽しみです。
その土地の素材で陶芸をしたい「大桑焼」
古民家をギャラリーとして改修している陶芸家の奥野さん。午前中に実際に見学しましたが、改めてご自身の今までの経歴と、どのような経緯で今の古民家を改修し始めたのかを発表されました。
メキシコに移住したきっかけ、そのメキシコで友人共に今もなお、アートスタジオを運営している経緯などをお話され、その根底にある想いは、陶芸というものは土があればどこでもできる仕事であり、自分は、メキシコでも木曽でもその土地の素材(土や釉薬など)を使って陶芸をしたいということです。
高橋さん
「益子の濱田庄司を思い出しました。益子も元々は焼き物の産地ではなかったけれど、その土地に同じような志を持ったアーティストが集まってきて産地なった。きっと、大桑にも、様々なアーティストが集まってくるのではないか?大桑焼をかかげて、頑張ってほしい」
坂本さん
「陶芸は沢山の人がやっているから、いづれにしても「いばらの道」です。でも奥野さんのおにぎり土偶などの作品はとてもユニークでクスっとさせられるものばかりです。ぜひ独自路線でこのままいってほしい」
奥野さんから作り出されるものは、お皿らから、土偶など幅広くユニークものばかりです。その作品が木曽で採取できるもので出来上がっていると思うとまた愛着もでてきそうです。
今後、奥野さんを中心にたくさんのアーティストが木曽に集まり、本当に「大桑焼」が盛んになるかもしれません。ギャラリーの改修と共に今後の展開も楽しみです。
異素材の調和と木曽材のカタチ
インテリアデザイナーであり、上松技術専門学校で木工を学んでいる秦さん。
東京や名古屋でインテリアデザイナーとして働いていたときに、自分で手を動かしてモノ作りがしたいということで上松技術専門学校へ。
里らぼでは、改めて木曽の素材や資源を調べ直し、木曽にあるあたりまえの素材、木曽ひのきや御嶽黒光真石に注目。それらを組み合わせた木のランプシェードの提案です。
木曽の石材店の石職人さんと話合いながら、木曽檜の支柱は八角形、シェードには和紙を使ったりして異素材の調和を目指したとのこと。価格帯や販売時期までいつからなど、具体的なプランも発表してくださいました。
高橋さん
「ここまでよく作り上げたことに敬意を表します。照明は要素が多くて大変だと思いますが、どんどん精度を上げて行ってください。」
坂本さん
「石に何かに組み込まれているのが面白いです。置かれている場所が想像できる佇まいです。手のひらサイズのものもあってもよいかと。石と木で業界が違う組み合わせはチャンスだと思います。頑張ってほしいです。」
旅館やホテルなどに置かれているのが想像できるシェードです。これからの販売展開を楽しみに待ちましょう。
以上、盛りだくさんの「里らぼ2021」3名のプレゼンテーション発表が終わりました。
プレゼンテーションを終えて
講師の高橋さんと、ゲストレビュアーの坂本さんは発表を聞いてどのように感じたのでしょうか。
デザイナー 高橋孝治さん
それぞれのプロジェクトが点となり線がみえる状態がとても良いと思います。3人それぞれが皆頑張っていて、アイデアにパワーがあり可能性があります。今は背中を押した状態です。トライ&エラーを高速でする感じでこれからもプロジェクトを進めてほしいです。
イラストレーター・文筆家 坂本大三郎さん
苦労して作ったものでも、適当に作ったものでも、やって世に出してみないと受け入れられるかはわかりません。また、人は締め切りがあると作れるものです。ぜひ「里らぼ」を糧にして世に船出してほしいです。そして、人生には誰にでも打席に立つ瞬間があります。全部準備ができていなくても、順番が来たら立つ。「はったり」も大切です。
なぜ、お店(場所)を持とうとしたのか?
高橋さんより、坂本さんはなぜお店を持とうとしたのか?を尋ねられ、
坂本さん
工房があり、店があると人が入ってくる。場をもつことによって、その人の思想が見えて、地域の人が来てくれる。また、子供ができると時間が大切になり、あと何年元気で生きていけるか?今の仕事をずっとやっていけるのか?などを考えるようになり、今やるべきことをしている、と。
高橋さんからは、
今、障害者施設のコーディネーターをやっていて、その施設にいらっしゃる方で絵が好きだから独立してやってみたいという人います。けれど、コロナなどの影響でフリーランスの方は行き詰っている状態です。会社勤めをしながら収入がある状態で、会社から帰ってきてから創作したり、会社が休みの日に好きなことをするという選択もありではないか?とも思います。
また、お2人の会話より、沢山の競合がいる中に割って入っていくからには「嫌われてもいい、試されている。」感じで臨んでほしいとおっしゃっていました。
里らぼ2021第2回目から参加の木曽青峰高校生の久保くんより
古民家に入った経験がなくて、今回とても楽しい体験ができました。最初の回よりアイデアがどんどん変わってきて、最後はちゃんとまとまっていてすごいと思いました。自分は「その変化を前から知っているぞ」という優越感に浸ることができました。参加させていただきありがとうございました。
埋もれかけてしまった木曽地域の文化や知恵を再び耕すというテーマに向き合い、講師や運営陣と共に切磋琢磨して過ごしてきた約5カ月。
プレゼン発表後には木曽町図書館での展示会もあります。ここで終わりではなく、ここからが本当のスタートです。参加者のこれからにどうぞご期待ください!
参加者(現場視察順)
·南木曽町地域おこし協力隊/川本さん
·陶芸家·大桑村地域おこし協力隊/奥野さん
·インテリアデザイナー·上松技術専門学校生/秦さん
講師·運営メンバー
・ゲストレビュアー/坂本大三郎(文筆家・イラストレーター)
・講師/高橋孝治(デザイナー)
・地域アドバイザー・企画/蒲沼明(デザイナー・BOCCA)
・企画・運営/坂下・西尾(ふらっと木曽)